金色
やまうちあつし

朝目覚めると
ライオンになっていた
金色の鬣
大きく裂けた口に鋭い牙
威圧的な眼差し
洗面所に立った私は
鏡に写った自分の顔に驚愕した
慌ててリビングに駆け込むと
家族は初めこそ
困惑の表情を浮かべたものの
まもなく何ごともなかったように
それぞれ朝の仕度に戻る
朝食のサラダをパリパリと食べながら
怖くないのかと娘らに尋ねると
動物園で見たことあるから、と
鬣に手を突っ込んでくる
そんなこともあるんじゃないの
人間の方がよっぽど怖いわ、と
意味ありげに妻
仕方がないのでネクタイで首をしめ
そのまま出勤することにする
通勤中も驚くほど差し障りなかった
ギョッとして目を留める者も
そんなことにかまってはいられぬと
持っている新聞や
スマホの液晶に視線を戻す
職場に着いても同様だった
上司のもとへ赴き
事の仔細を説明すると
上司は一応の同情と気遣いをした後で
すぐに取引先とのやり取りを確認し始める
同僚たちの話では
聞けば近頃
こんなケースはどこにもあるそう
人事課のだれそれがキリンの顔に、とか
庶務課のなにがしがイヌワシに、とか
社内でも前例がある
時代の病理とか
価値観の多様化とかで
騒がないのがならいだそうだ
幸か不幸か
ライオンの顔になっても
私は私のまんま
そのままで受け容れられる
ひと吠えしたいのをこらえて
タイムカードを押す
そんななか
はっきりと反応を示す者がいた
昼休みの屋上で
面と向かって告げられたのは
こういうことになったからには
これからさき
つづけることはできません
あなたとあなたのごかぞくの
しあわせをいのっています
そう言って
その人は
俯いて去って行く
金色の髪が風に靡く
雲が流れて心の形
ライオンに変わったことよりも
体に染み入る
しびれがある
どうもありがとう。
そんなにもわたしのことを。
あなたのためにも
これからりっぱなライオンになるよ。
オフィス街に轟くほどに
声の限りの咆哮をして
私は午後の仕事に戻った


自由詩 金色 Copyright やまうちあつし 2018-05-18 14:44:41縦
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