ぼく語と星
若原光彦

もしもひとつだけ願いが叶うなら
世界にむちゃを言わせてもらえるなら
ぼくはぼく語の制定を望む
ぼく語はぼくの歴史に基づいて
文法や語彙が構成されており
そこにはぼくの可能性も含まれる
と同時にそれはぼくの限界を示す
ぼくの認識をそのクセをうかつさを
たとえばぼくに何が言えて誰をどう傷つけうるのかを
ぼくに何が考えられ何が考えられないのかを
ぼくがいつどこでどんなざまで死ぬかを示す
日本語や英語はぼくを殺すが
ぼく語はぼくをただ死なせる
ぼくはなに語も話せるようにならないだろうから
もしも世界にむちゃを言わせてもらえるなら
ぼくはぼく語の制定を望む
ぼくはそのぼく語で旅がしたい
そしてまずは日本のような旅人にやさしい国へ行こう
そこでぼくに行きたい場所があって
でも道がわからないとしよう
ぼく語の学生は今こそとばかりに応じてくれるだろう
ぼく語を知らない人もどうにか手を尽くしてくれるだろう
人から人へたらい回しにされるかもしれない
通りすがりから駅員さんへ
駅員さんから駐在さんへ
あいまいな笑顔の数珠つなぎが続いて
なんだかわからない車のなんだかわからない席に案内され
だれもがにこにこ笑顔で手を振るかもしれない
なんだかわからないものをさし出され
いいから食ってみろ旨いぞとせかされるかもしれない
不思議なホテルで何泊かするかもしれない
窓からいつか見たような星座が見えるだろう
もしもひとつだけ願いが叶うなら
ぼくはぼく語の制定を望む
歳も遠さもわからないけれど
星の光はぼくにも見える
世界よすまないやさしくしてもらって
ぼくったらいつまでも赤子にすぎなくて
すまない本当にすまない


自由詩 ぼく語と星 Copyright 若原光彦 2018-05-14 17:49:32縦
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