森の悲鳴
秋葉竹



それは 悲鳴だったか。

夜、
星空に吸いこまれた
めざめれば消えてしまう
夢の中の笑い声。

とつぜん黙ってしまった
橅の森の中で
目に見える
淡い緑色のそよ風に
暗い失望をかかえた木々が揺れ
甘い蜜を湖底にたくわえた
湖面に月明りは波打つ。

私は、その夜、
森の奥の小屋で。

夢を見た。

はるか遠く
かなた海峡に船を浮かべて
美しい髪の毛を切った人魚たちの
鈴がふるえるような儚げな笑い声が
聞こえる夢。

星が流れる、
恋しい人に会えない夜も。

どこか湿り気を帯びた泣き声がする。

森に住む
怯える小動物たちは
立ち止まり
声のする方角を凝っと視る。


それは、悲鳴だったのだ。

日々の暮らしに痛々しく
追われるあなたの腕を
ふりほどき
雨上がりの獣たちの匂いさえ
なかったことにする 時を止めちまう
こころを止めちまう 光を止めちまう
それはやはり、悲鳴だったのだ。

聴くものすべてを ひざまずかせ
神様に祈らせるほど 救いのない───



自由詩 森の悲鳴 Copyright 秋葉竹 2018-05-11 06:10:36
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