なかった
松岡宮

古くなった自宅マンションに上下水道管の工事が入り
「おはようございます 今日もよろしくお願いします」
9時から17時まで管は塞がれる
どっどっどって
たくましい若い男たちがやってきて
トイレの天井を外して振動を加えて
「お邪魔しました また明日よろしくお願いします」
どっどっどって
去ってゆく
そんな5日間
夜は静かな寝入りばな
塗料の匂いが残るトイレに入れば
夜の水管はやっと開かれて
蛇口は安心して捻られて
下着はやっと下ろされて
尿は忌憚なく噴き出されて
しょっしょっしょっと 
しっしっしいと
そのとき見上げた天井には
なかった
盗撮用の小型カメラは
なかった
むき出しの水道管にプラスチックの板をかぶせただけの暗い仮天井には
なかった
ふと視線を下げて
下着のクロッチ部分を見つめたあと
また 天井を見上げる
なかった
でも
何度も 見上げる
プラスチックの仮天井に開けられた雑な穴から傾いた電球がぶら下がっている
おーい 悪いひとたちよ
尿の白い湯気までも映っているかい
トイレットペーパーを折り畳むしぐさや
いま見上げているわたしまで映っているかい
いいや
なかったのだ
盗撮用の小型カメラは
なかったのだ
しっしっしいと
トイレ終了
こんな言葉は誰にも言ってはならない
盗撮用の小型カメラは
なかった


自由詩 なかった Copyright 松岡宮 2018-05-09 00:30:52
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