しゅうちゃくえき、恵みの雨
狩心

血が欲しい。

海岸沿い。捨てられている。
骨が折れた蝙蝠傘の山。

法治国家に放置されたトラック。
覗き込むと。助手席の下に金塊。
無人駅のトイレで断末魔。走る。

取引相手に報復されて。
四肢欠損。頭の皮を剥ぎ取られ。
リボンも結べなくなった中年の女。
身元不明の君の人生を続ける為。
同情から。偽装結婚したが。
母国語も違う僕らは。
言葉での意思の疎通は難しい。

君の為に罪を犯し。次々と集めた。
百本の小指を飲ませる。
生えてくる。百本の小指。
漆黒のブラジャーの紐を垂れ下げ。
君は。百足のように蠢く。
妊娠何ヵ月目だろうか。

絢爛たるシャンデリアの下。
富は私を満たせなかった。深夜に。
逆子で出生。ピンセットの先に。
鋭い憧れを秘めた針金。
固く閉じられる傷口。
執行猶予はまだある。

出産後。
妻は性別が中性化してきている。
どんどんと筋肉質になり。
髪は抜け落ち。胸は萎み。
股から得体の知れない突起物。
声は低くなり。奇声。
大きな屋敷に響き渡る。渇望。

窓にぶつかって地に落ちた鳥。
そこへ近寄る百足。軽蔑はしない。
銀のスコップで。鳥の埋葬。
骨だけの地図は美しい。
梅の花が咲いている。
花の眠り。立ち込める霧。
お花畑になった僕は。
猫の肉球を。ぷにぷにしたいよ。
ハッハー。

無防備に面白いビデオ。
ネットに流し。話題騒然。連日連夜。
当事者の不在性を。
シロップで瓶詰め。
連想が連想を呼び。
仮想が現実を呼ぶ。
瓶ビールさえ買いに行けない。
蟻地獄のような喉。乾く唇。
つける薬はない。キスで閉じる闇。

坂の勾配。棺桶を引き摺る。
海岸沿いの。防砂林から。
人面蝙蝠が飛び出してくる。
君もか。私の周りを飛び回る。
祝福と哀しみ。こんちには。
偽造防止の技術が発達した昨今。
ハンカチは常に乾いている。
ポケットに穴。
何かを落としたのだろう。

棺桶の横で。赤子を食わせる。
喜ぶ妻。喜ぶ私。
互いに妊娠している。
何ヵ月目だろうか。
次の命の為に。
今の命を犠牲にする。
妻の突起物に股がる。
貫かれる私。あーという乾いた声。
詩刑は執行された。
私が果てても。妻は。
蠢きを止めなかった。
音楽は一旦止まり。
詩情は。第二トラックへ。
大きな屋敷に。
クラシックが流れ始めた。

私の口から這い出る胎児。
棺桶に落ちて。
嬉しそうに眠った。
もう二度とこの屋敷に。
雨は降らない。


自由詩 しゅうちゃくえき、恵みの雨 Copyright 狩心 2018-05-07 19:53:38
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