階段の森
塔野夏子

いつもの二階への階段をのぼっていたら
いつしか階段が森になっていた
のぼってゆけばゆくほど
森が深まる
樹々が茂り
鳥の声も聞こえてくる
のぼってものぼっても
いつもの二階にはなぜかいっこうに
たどりつかないのだけれど
深まってゆく森の景色を見ながら
階段をのぼってゆくのが楽しくて
いつもの二階にいつものようにたどりつけないことなど
どうでもよくなってしまった
この階段の森をどんどんとのぼってゆけば
いつもの二階だけじゃなく
すべての「いつも」から脱け出せるんじゃないかと
このまま森の深みに入っていって
もうどこへも帰らなくてよくなるんじゃないかと

  ねえもしかしたら
  この階段の森をずっとのぼって
  のぼりつめたらそこには
  もういなくなったはずの君がいるのではないのかな

と思ったとたんに
階段の森はかき消えた
何の変哲もないいつもの階段で
二階へとたどりついてしまった

いつものドアを開けて
「いつも」へと帰ってゆくしかないんだね
君を忘れて




自由詩 階段の森 Copyright 塔野夏子 2018-05-05 11:00:20
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