借りてきた猫
やまうちあつし

私の家には
借りてきた猫がいる
私が生まれる以前から
それどころか
祖父の代よりもっと前から
この家に居座っているのだけれど
どこかから借りているものらしい
そのくせすっかり家族の一員で
誰もその存在に疑いを持たない
エサをもらい
喉を撫でられ
気が向けば散歩に出かけ
夜になれば戻って来る
誰から借りているのか
どうしていつまでも
借りもののままなのか
誰も多くを語りはしない
四、五年に一度
両親がめかしこみ
猫を連れて出かけることがある
行先も
帰る時間も告げぬまま
車で家を出る
暗くなってから帰還した両親は
たいそう疲弊した様子で
大切そうに懐に猫を抱く
汚れた衣服もそのままに
倒れるように眠ってしまう
猫はいつものように
ソファの上で毛繕いしている
何事もなかったように
翌日からも営まれる
我が家の暮らし
祖父は庭をうろつき
父親は出勤し
母親は家事をして
借りてきた猫がいる


自由詩 借りてきた猫 Copyright やまうちあつし 2018-05-05 08:08:18
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