ただのみきや

風を見ていた
風のない部屋の中で
誰かが見返していた
風に翻弄される
鵯の眼の中から
当然のこと
眺める者は眺め返され
卑しめる者は卑しめ返される
風のない部屋の中で
酷薄なわたしと言うサンプルは
文字化けしたシンプルな殺意だ
角氷が背中を滑る
ホッチキスだらけの肉体への
淫靡な拷問
擦り込まれる媚薬
舌の上の磔刑
中身のないミイラをヌードにする手管に
仰け反り落ちた
音韻の
アバラとイバラの貞操帯
アラバマソングでサンダンスキッドな
アングロサクソンはシングルモルトで
地獄へ落ちる
お貧相な
お耳朶へ
お小水の雨あられ
一口サイズのスモークチーズを齧っている
右手の親指と人差し指につままれたチーズは
三歳児のオチンチンくらいだけど
半分食べられたって断面はチーズなんだ
何ら罪ではないことも
罪深い人間が語れば罪深く聞こえるだろう
罪深いことすら
善人と思われるその口が囀れば美しくも聞こえるのか
凡そ真実ではないことが
真実の地位を得るために
日夜姦淫を繰り返した
ラブラドールレトリバーのラブドールが
生きたまま捨てられた影みたいに駆けて来る
塩辛い天の下
なぜチーズをかじる
なぜ黙って鑑賞していられない
なぜ黙って読んでいられないのか
なぜこうとする
なぜ書こうとする
魔術師の福笑いは
風に絡まって散々だ
首を斬られた鶏のように
騒いだところで後の祭り
ロングロングアゴー
オルガンにガソリンをぶっかけて
アケロンを渡るケロヨンのタトゥーを
サトちゃんはどんな気持ちで見送ったことだろう
わからず屋のマッチョは
ワイルドサイドを歩くことがない
鼠の睾丸ミミズの歎願くびれのない弾丸だ
ミシン目の通りに破られる
娼婦の永遠の処女膜は
うっとりするほど深い夜
原初の傷口とセックスした
勃起した自尊心が萎え果てるまで
闇を飲む甘い眩暈に
先住民の夢をまさぐりながら
モヒカン頭の少年が
荒れ果てた土地へ誘った
殺してほしいとせがむ
口いっぱいの蛆虫
ろくな祈りもありゃしない
モツァレラピザみたいに外面そとっつらはとろけ
血まみれの本心がゆっくり
傾いで往く
視界のほとり
竪琴で殴り 殴り倒して
あなたの銀歯が
愛おしかった
篝火 ガムラン セレナーデ
必死で掬う掌からこぼれ落ちて往く煌めき
裏打ちする心臓に重ねて唇は
アンダンテ
倒れて伏して目覚めれば
アウトモラル
言うと嘔吐の
芥子畑
一面
はち切れるほど豊満だった
ふり向けば死海の一瞥が瞳を掻っ切り
襤褸の影がカラスの群れみたいに散り散りになる
焼けるような冷たさでヒリヒリした
朝がはじけ
カレンダーから鳥が囀る
アンタッチャブルな鼻っ柱を
柱時計でブン殴れば
暗転した
白目が綺麗
あんどろ目だ
案山子は不思議そう
疑問符と感嘆符を節操もなくぶちまけて
亀の甲羅を剥ぐ
バングラデシュ人のように
きれいな肌の袋小路で
打ち上げられたバンドネオンが星座を乱す
ラテン語で広がる波紋
宿屋のおやじが女装する
街を上げて時代を上げての追剥だ
次郎を眠らせろ
卑弥呼を躍らせろ
バスに乗って国境を渡れ
蛙のパンタロン
顔のない仏像に跨りながら
薄紫色をした雲雀のしずくで爪先を染めろ
ラクダの腸で縄跳びする
羊や山羊の匂いのする少女たちと一緒に
大鍋で煮られて
歪みの神のみが知る香りの中で
喜捨せよカシューナッツを腰に撒け
双六の駒を団扇で吹き払い
切手も貼らずに手紙を出せ
皮膚の内側を滑って行く
海月の影より朧げに
マンドリンの音を閉じ込めたまま
帰郷せよ
黒船を追い抜いて
イエローサブマリンが特攻する
嘘つき藁人形の腹に隠した一物を
キツツキが穿り出せば
休日の過剰さに
小数点以下の魂は削除され
弓なりの列島から
昇華される
pm2・5に包まれて
惨事のあなたは
何処へ往く
改革派とアルメニアンの間
女王の股は凱旋門
くぐれやくぐれマタドールたち
ハッピーなエンターテイメントたちよ
エンドロールが枕を恋しがって泣いている
彷徨いながら塵になれ
チャリティーがチュニジアでは鍵だ
釘を刺せ 五寸釘を
出る悔いは歌え
朝に夕にこむら返る
平和の足枷よ
風には空しさが必要だった
熱源と無限が必要だった
永遠はただ永遠のためだけにある
ゆでたまごには塩が必要だった
まるでつるりとむけてしまう
存在という殻から
つまらないものだと言いたげに
いらぬお世話と言いたげに
色のない世界でひとつの蕾が膨らんでいる
まるで昨日の夢のように
鵯の眼が落下する
夏草を釣り上げるこの季節に
最初の雨粒のような孤独さで
それも性かしら
左目が笑う




                       《鵯:2018年5月4日》











自由詩Copyright ただのみきや 2018-05-04 09:43:27縦
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