鉄棒と絶望を間違えて
こたきひろし

右手をピストルにした
銃口は人差し指の先 中指が引き金
銃口を自分のこめかみに当てた 躊躇わずに引き金を引いた
バーン
銃声を口で声にした
死んだ真似をしたら 胸の隙間から冷たい風が吹き込んだ

鉄棒の逆上がりがどうしても出来なかった
何度も挑戦したが無駄だった
努力は重ねれば いつかは報われる
重ねても けして報われない努力があることを
何度も味わった少年は

そんな時 右手をピストルにして
自分を射殺した
そうやって絶望した感情に終止符をうった

少年は 大人と子供の境界線に向かって歩いていた
一度は通り抜けなければならない道筋を
歩いている間にその心が歪んでねじれてしまう事が
一度や二度ではなかった

少年は気づかない間に大人になっていた
本当は子供と大人の間に境界線なんてなかったんだ

道の上には踏み越えなければならない壁が幾つもあらわれて
落ちていた石ころに何度も転んだ

大人になったら 本当の大人にならなければ
ただの負け犬にされてしまう
いつまでも右手をピストルに変えてなどいられなかった

大人になっても鉄棒の逆上がりはできない
だけどそんな事にかまってなどいられない
生きなければならないから

何のために生きるかはわからないけれど


自由詩 鉄棒と絶望を間違えて Copyright こたきひろし 2018-04-29 06:34:15
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