柔らかな土
こたきひろし

燃える棺桶のなかでは 遺体は一瞬生き返るらしい
しかし その様を実際に見ることができるのは斎場の職員だけに違いないから
自分の目で確かめる訳にはいかない

故人を忍ぶ語らいのなかで 言葉少なかった私が何となく考えていたのはそんな事だった
いかなる状況のなかでも永遠の眠りに落ちた人がその眠りを覚まされるなんてあり得ない
燃える棺桶のなかで、もしあったとしても 結果焼かれて骨になってしまうのだから何の意味もないだろう

その日は爽やかな風と晴れた空が一人の旅立ちを祝福しているのかもしれなかった
自然に包まれた施設は市街地から遠く離れていた

産まれ落ちた時から死は約束されている

それはふたたび生まれ変わる為のセレモニーなりうるかは
なんびとも確められない
ちかしい者たちが 箸で骨を拾う儀式のなかで 正しく箸が使えたかばかりを気にしてしまった私は
その心に生まれついて何かを欠いているいるのかもしれなかった

故人を悼む悲しみが私の目頭を熱くする事は
終になかった
確かに私は人として
何かが欠けていると思った


自由詩 柔らかな土 Copyright こたきひろし 2018-04-28 06:47:59
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