ぷかぷか金魚
tidepool

昼過ぎに目が覚めて自暴自棄になってしまった日曜日の午後とか
誰にも祝ってもらえなかった誕生日とか
きみはそういう記憶に名前をつけて
また水槽に沈める



きみの水槽がまだ空っぽだったころ
世界はまだ正常に機能していて
部活で疲れて着替えもせずに 泥のように眠った夜にも
好きな子の恋が叶いませんように と願って眠れなかった夜にも
太陽は平等に朝をくれた
薄暗い部屋の障子の隙間から
居間に繋がる襖の隙間から
朝はきみの部屋に流れ込んでくる



夜勤シフトのバイトを終えて 誰もいないアパートに帰る
水浸しのフローリングの上で金魚が死んでいた

窓の外の航空障害灯がひらひらとこちらに向かってくるような気がした
昔聞いた都市伝説を思い出して 少し寒気がする
きみは 子どものようにベッドに潜り込んだ



わたしだけが知っていました
たまごの入った味噌汁 太陽みたいな柔軟剤のにおい
それがきみにとって
世界で一番愛おしくて
世界で一番正しい日常であったこと

ひらひらと泳ぐ金魚に わたしはきみの名前をつけた


自由詩 ぷかぷか金魚 Copyright tidepool 2018-04-28 02:07:45
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