尽きぬ火
相田 九龍

うつむいた顔を上げて
彼は笑った
笑ったんだ
その壁を見て

倒れ込みたいくらい
悲しくなくても
泣きたいくらい
疲れて、疲れ果てて
何か叫んで
逃げ出したいくらい
ボロボロの心で
その火を見つけたから
笑ったんだ


大切なものが分かってきた
彼のそのひとつの人生で
二つだけの手で
大切にできること
その少なさに
その小ささに
その少しがもたらす
尽きない火に
気付いたんだ
だから彼は笑ったんだ
震えた手を隠したんだ

ボロボロになった心の
奥にあるその
小さな愛おしさが
泣きたいくらい、逃げたいくらい
疲れ果てた心にまだ
尽きぬ火を灯してくれるのを
また知ったから
また、思い知らされたから

とても越えられないような
新しい壁を前にして
笑ったんだ
泣きたい心を
お尻のポケットにしまって

分かったんだ
まだやれるって
やるしかないってことが
自分には救いなんだって
それだけが
小さい自分にできる
唯一の証明なんだって


自由詩 尽きぬ火 Copyright 相田 九龍 2018-04-23 19:26:35
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