ままごとあそび
ただのみきや

ひと粒のキャンディーが舌の上で溶けて無くなる前に
いつも噛み砕いてしまう男が馬乗りになって
犬には解らない母親譲りの言葉でトイプードルを撫でながら
時折その首を絞めていた女を殴っている
二人の暮らしは愛から始まった
少なくとも当初そう信じていた

時代精神に成長も退行もない
一種の集団幻想が史実の上澄みとしての文化史を飾る
目を留めるとそれはいつも古臭く見える
鏡を見ても気づかなかったものが
あとから写真を見てようやく気づくように
一つの時代の集団的無意識の表出には三つのベクトルがある
新しいタイプのファッションやアイドルがポピュラリティを得る
(ポピュラリティそのものが主体と言っていいだろう)
新しいタイプの芸術家が生まれ新しいムーブメントが起きる
(先鋭的であり一つの痕跡を残しつつやがては分岐して往く)
新しいタイプの犯罪が起きる人々を震撼させるような
以前には無かった 考えられなかったものが
突如破れた傷口から一斉に血が噴き出るように
次々に呼応し 誘発し 模倣されて往く
やがて小説や映画や漫画などに再構成されて広く拡散されると
衝撃は薄められ勢いは収まり傷口は乾いて往く
もはや新しくはない既存のものとしての定義を終える

二人の暮らしは愛から始まった
少なくても当初そう信じていた
ひと粒のキャンディーが舌の上で溶けて無くなる前に
女の瞳の中で月蝕が起きた
犬は吠えたが人には解らなかったそれが
どんな気持ちを現わしていたのかも何を伝えたかったのかも

男は泣いているようにも見え女は笑っているようにも見えた
その反対でも何一つ変わりはしなかったが
無邪気さは月の光の糸で踊るマリオネットのよう
どんな美しい言い訳を どんな悲しい理由を添えてみても
腐敗は止められない
詩を書く理由はいらない
腐敗が止まらないそれで充分だった




                《ままごとあそび:2018年4月14日》











自由詩 ままごとあそび Copyright ただのみきや 2018-04-14 19:58:55
notebook Home 戻る  過去 未来