アマリリス、お行儀のよいバター、盲目のこと
はるな


ベランダと窓とレースのカーテンをはさんでみるひざしはやさしい。5階からみる中くらいの街なみも。
駅から歩いてくるだけでもたくさんの花がみられる。うすいオレンジ色のぺなぺなしたひなげしとか花水木とか藤の盆栽とか。しぶとく咲きつづける椿とかシクラメンもすきだし、家のかべを占領する木香薔薇、なんとか咲いてますってかんじのプランターのアマリリス。コンクリートが海みたいにさざめいて、流れてくれたらいいのにね。

網棚に買った花を忘れてきてしまった。
芯のくろいガーベラ、千日紅とみどりのカーネーション、もうそろそろ終わりだからって欲張って選んだむらさきとピンクのスイトピー。かわいそうな花たち、網棚でかさかさにかわいてる最中に、わたしはむすめとホットケーキなんか食べてた。まるくて軽く焼かれたホットケーキの上にはお行儀よく四角いバターがのってて、運ばれてくるなりフォークでつきさしてバターだけを食べたむすめ。店を出て暗くなった街をみて「いつよるになったの?」「まだ朝がよかったよ」とべそをかいたむすめ。
言いたいことは言い終わって、時間がながれていく。朝や夜が、街じゅうに(ひとびとに)しみをつくったり、与えたり奪ったりしながら色色とかわっていくのにいちいち心を動かされているのがいちばんいい。
いちばんいいとおもうのに、心ばっかり動いて体からはがれていくから、どうどうめぐりしてしまう。

たとえば朝、わたしの目ははやくさめて、(街が起きるよりもわずかに早く)、ベランダでたばこを吸う一息のあいだに、季節はぐるぐるまわっている。うそみたいに。なんども思い知らされる、ここがかつていたどこでもないこと。
ひとりでいるのはとても危険だ。いろんなものをみてしまう。(そして盲目になる)。


散文(批評随筆小説等) アマリリス、お行儀のよいバター、盲目のこと Copyright はるな 2018-04-10 09:06:48
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