電話2
板谷みきょう

あっ。みー?
オレオレ K。


ボクを「みー」と呼ぶのは
数える程の人しかいない
それも、二十歳前後の頃に出会った
近しい人だけだった。

えっ?!
確かKは、死んだはずだよ。

(ボクは今 死人と話をしている)

あぁ。オレさ あれから
精神病院に7回
入退院を繰り返してさ

今は
実家に母親と住んでるんだ

この20年の間に
誰とも連絡を取らなくなったから
それで
死んだって噂になったんだと思うけど
死んだのはオレじゃなくて
Sだよ

Sは付き合ってた彼女に
振られて橋の下で
首吊って死んだんだよ
みーは知らなかったの?

Sは「行方知れず」になってるはずで…

(記憶違いに 目眩がし始めた)

うん。
それでどうして電話をくれたの?

みーさ。
オレの歌を褒めてくれて
歌詞の書き方とか曲の作り方とか
教えてくれたじゃない。
それで
20年の間
入院中も音楽理論や
音楽学を勉強しててさ
70曲ぐらい作ったんだけど
今度、家に遊びに来ないか?

そんな話をしながら
ボクが彼の音楽性を
高く評価していたことを
嬉しそうに言葉を変えて
何度も繰り返していた

遊びに行くことを約束したけれども
ボクは
彼が懐かしく語る思い出を
殆ど覚えてなかった


自由詩 電話2 Copyright 板谷みきょう 2018-04-10 03:28:19
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