トビーの旅
たこ

赤い大地にさいなまれ
トビーは今日も歩き出す

太陽に焼かれた赤土で
トビーの足は水ぶくれ

それでもトビーは歩き続ける
隣の村の井戸に向かって

村へ続く一本の道
わきにはヒースと痩せた牛
大きなサボテンのとげ
チクリとトビーのほほをさす

それでもトビーは歩き続ける
隣の村の井戸に向かって

頭に担いだ水ガメは
ずしりとトビーを押しつぶす
村の井戸の帰り道
カメはずっと重くなる

トビーは尊き大地の子
彼の肌は大地の色
けれどもトビーは忘れてしまった
大地の真ん中で踊ることを

隣の村で水をもらった
茶色と黄色の混じった水を
昨日より幾分すくなく
おとといよりずっと少ない
明日はきっともらえない

隣の井戸も干からびそうだ
涙はすでに枯れ果てて
乾いたくちびるは語らない

瞳を閉じて、黙したまま、
トビーは冷たい仕打ちに
グッと堪える

トビーは神の子、大地の子
彼の瞳は二つの宇宙
けれども彼は忘れてしまった
天に向かって叫ぶことも

夜の闇にコヨーテがないて
トビーは家から放り出された
ホロ布ひとつ身にまとい
トビーは岩場にねぐらを探す

アラベスクの織物の中で
トビーはひと時、横になる
ちりばめられた星たちは
こぼれて今にも降ってきそう

夜の闇は大地を覆って
今にもトビーを飲み込みそう

けれど
闇も大地も星たちも
やがてはすべて溶け合って
トビーの意識は落ちてゆく

トビートビー、
扉を開けて

今の声はなんだろう?
遠く懐かしい
お母さんの声がする

乾いた風がほほをなで
トビーの心はざわついた
眩しい光に気がついて
トビーは眠たい目を開けた

赤い荒野が広漠と
トビーの前に広がっている
遠く向こうに、ひとりぽつん
ラクダに乗った男の影

トビーの一日が
またひとつ始まる

赤い大地を踏みしめて
トビーは今日も歩き出す


自由詩 トビーの旅 Copyright たこ 2018-04-06 21:07:59
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