空飛ぶ眼球
狩心

たまに
眼球を取り出して水で洗いたいと言う人がいる
それを本当に実行した奴がいて
それを目の前で目撃した女がいる
その女をストーカーしている男がいて
その時ドアの前に立っていた

部屋の中で行われていることは
部屋の中にいる奴らにしか分からない

盗聴器から漏れてくる喘ぎ声
私はドアに唇を這わせてしがみ付く
爬虫類のような動きをして
マンションはどんどんとジャングルになる
オラウータンの鳴き声が聞こえる
廊下を
こちらへ向かってくる黄土色のぐちゃぐちゃ
私は吐き出されてマンションの階段から宙を舞う
ストップモーション
叩き付けられて動かなくなる

乱れた服の皺を正して
化粧をした女が買い物に出かける
ルンルンと舌の上で眼球を転がしながら
坂道を前転で転がり落ちて
頭がぱっくりと二つに割れる

たまに
スイカ割りをしたいと言う子供がいて
それを本当に実行する大人がいる
それを親心と言う

子供は永遠に生きる為に親を殺す
その子供もまた、殺される時に気付く
親はまだ死んでいない
そう気付くが
時すでに遅く
眼球は次の人の元へと
飛んでいく

とても臭い匂いの中
息を吹き返し立ち上がる私は
部屋の中にいる奴の死体を見て頷き
眼球が飛んで行った方角に向かってバイクを走らせる
ウィーンウィーンと機械化していく身体
手足がバイクに付着して離れれなくなる
どんどんと加速してブレーキはニタニタ笑い
自ら路上へと真っ逆様に落下する
ストップモーション
地平線の日没と共に現実の壁が迫ってくる
加速する身体
呪われた眼球を逃がしはしない

この街の最果て
何も無い空間に向かってジャンプする

気付くと
公園のベンチに仰向けで寝そべっていて
大丈夫ですかぁ?と覗き込んできた女がいて
モードチェンジ
すかさず左目を抉り取った

逃しはしない
暖かな公園でキセイに包まれる中
私だけが確信していた

本当の現実が
何であるかを







自由詩 空飛ぶ眼球 Copyright 狩心 2018-04-03 13:45:04
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