草野大悟2

 青鷺は、一声鳴いて、大きな翼で空をたたいた。翼のひとたたきで、番人の本来あるべき位置にもどったとき、「二人とみんな」の姿は見えなくなっていた。
 茜色になった風が、吹いてきた。
 番人は、口を大きく開けて風を呑み込んだ。
 風は、番人の体の中を吹き、青をより鮮やかに染めた。
 「二人とみんな」は、呑み込まれそうになりながら、扉を目指していた。赤が風を見つめながらハミングをした。赤紫と空色と黄も続いてハミングした。それは、カノンだった。
 重層的に奏でられるメロディが、茜色の風に乗って世界中に流れた。
 外の生き物たちが動きを止めた。人間も車の運転を辞め、耳を傾けた。静寂の中にカノンは流れつづけた。扉が近い、と予想された。
 扉は、有機体を遮断することはできる。しかし、音楽や言葉や色や光や風を遮ることはできない。扉が、どうあがいても、それは不可能だ。歯ぎしりが聞こえた。扉が軋んでいる。歩き続けた。もうすぐ終わる。もうすぐ私たちは。
 夢や希望なんか叶うわけはない。断言したものに見せつけてやりたい。みんなの生き生きとした顔。色。見せつけてやりたい。叶わないものを叶えることが、私たちの仕事だ。
 扉の軋む音が大きくなった。恐竜の声。のたうっている。扉が、開けられることを拒んでいる。拒まれるようなことをしてはいない。
これから先、私たちが存在する限り、そんなことは、決してしない。
 もう、どれくらい長い間、歩いて来ただろう。分からない。ここには、時間などという煩わしい概念はない。しかし、体が、ずいぶん歩いた。一生分歩いた。そう、悲鳴を上げているのが分かる。
 頑張れ、青が叫んだ。


自由詩Copyright 草野大悟2 2018-04-03 10:17:08
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