ざぁだ・・・
よーかん

タイルの壁を眺めている。

拙いモザイクで模様が描かれている。

何を象っているのかわからない。

葉脈だろうか。

馬のようにも見える。

神聖なシンボルではないようだ。

もっと古い何かのような気がする。

明かりの下で蓋のない土鍋がグツグツと湯だっている。

木の床の感触が重たい。

丸い革靴を履いている。

窓の外はガラスが曇っていて見えない。

老婆が容器の蓋を開け、黒い粉を二さじコップに移す。

長い柄のオタマで土鍋から、これも二杯、熱湯をコップに注いだ。

「ほれ」

老婆がコップを差し出す。

「ざぁだ・・・ざぁだ・・・」

マフラーをした老人がたずねる。

これはなんだと訊ねているようだ。

「だいじょぶだ。だいじょぶだ。」

老婆がコップをさらに差し出す。

「ざぁだ・・・」

老人が両手を脇の下にしまい顔を横に振る。

「だいじょぶだ。だいじょうぶだ。」

老婆が老人の後頭部を掴む。

唇にコップをあて傾けようとする。

「にがいど、にがいど」

老人の視線がワタシを捕らえる。

老人の顔がクシャリと歪む。

笑顔なのか。

歯がない。

舌の奥に暗闇が見える。

「ざあだ・・・」

「インスタントコーヒーだインスタントコーヒーだよジイさん!」

叫びながら跳ね起きた。

「ああ、だよな。」





おしまい。









自由詩 ざぁだ・・・ Copyright よーかん 2018-04-01 19:56:56
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