冷たい穴
Seia

二日ほど前
顔のあたりに穴が空いた
穴というべきかなんなのか
顔があるべきところに
冷たい空気がただよっている
加湿器から出たほわほわが
渦をまいてとどまっているようだ

きっとこれは罰なのだろうとおもう
予兆はたしかにあった
ときたま
顔の感覚がなくなることがあった
頬をさわっていても
てのひらに感覚はなくて
もしかすると
わたしの顔は今
存在していないかもしれないと
尾羽根を振りながら歩く
カラスを見ながらマフラーを解いて
ヘルメットを外した

左から右へ
作業は流れていく
ひとりの手が止まれば
透明な水は濁るなか
プラスチックのパックにのせられて
左から右へ流れていく
赤く色づいたイチゴ

手元に流れ着いた完成品を
掲げたその向こう側で
選別は行われている
いる
いらない
いる
いらないの繰り返し
そのなかのひとつに意識が
吸い込まれていく
近付いてくる手
観察される身体
ひかる汗
ばらばらになるパック
平謝りするわたし

ねずみにかじられたイチゴがステられる度
自分がステられているような
感覚になった
いたちの爪痕残るイチゴが投げられる度
自分が投げられているような
感覚になった

コンテナいっぱいの既成品と
ダンボールいっぱいの失敗作を
一緒に載せたトラックが
カーブを曲がって
見えなくなった

落ちるヘルメット
ぎっしりと詰まった疲労感
はやくわたしは帰りたいのに
何度かぶろうとしても
そこにはただ
冷たい空気があるばかりで


自由詩 冷たい穴 Copyright Seia 2018-03-18 22:17:18
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