あくび
ヒヤシンス


 ピアノが奏でる森には妖精が住むと言う。
 感情は朝の霧の中に紛れ、感性だけが宙に浮かんでいる。
 僕は裸足で森を往く。
 まだ影は存在しない。

 清らかな冷気が辺りを包む。
 冬の厳しい寒さの中で妖精はどこに潜んでいるのだろう。
 静かに初夏を待っているのだろうか。
 人々が足跡を残す初夏に。

 立ち止まる人は己の内面へと深く、深く。
 自分の色を持つ人は時に繊細で。
 心穏やかに五月雨を待ち望むように。

 光景の瞬間に足跡は残せない。
 妖精はいまだ現れず。
 思考の森の中で一人驟雨に晒されながら。


自由詩 あくび Copyright ヒヤシンス 2018-02-24 06:27:00
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