アンチ
ただのみきや

雪が密度を増す
白の重ねに滲む陰
朝は指先すぐ
声は遠く流される
赤ん坊の目蓋の向こう
海に架かった黄金の橋
糸屑のように燃えて


光が厚みを増す
白は静かに湧き上り
冷やかな頬と頬
目覚めては 眠りに落ち
眠りのなかで目覚めては
地吹雪に抱きすくめられ
抱きしめること叶わずに


銃声は
始まりと終わりの
産声と末期の声の
たった一度の迸りだったか
その声すら置き去って
誰の目にも止まらず
時を切り標的もなく
誰の胸を貫きもしなかった
やがて慣性は尽き果て
静物と化し
腐食して往く
忌み嫌われた者の地で
血で汚れたことのない
冷たい己の体温に欹てながら


天使たちの竪琴の弦が一斉に切れた
拍手と笑い 鏡色の
蝶の群れが弧を描いて斬りつける
雲の下の机
自分の頭が転がっていた
雪は止み 象のよう
四十万が夢を食んでいる




              《アンチ:2018年2月17日》








自由詩 アンチ Copyright ただのみきや 2018-02-17 15:11:20縦
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