林檎売り
やまうちあつし

林檎くらいしかない
君に渡せるものといったら
それは詩でできていて
内側を列車が走っている
よく見れば車窓には
いつかの君と
いつかの誰か
そしてみんながカムパネルラだ
一人の夜に光を放つ
齧ってみてもいい
飾ってみてもいい
転がしてみるといい
絵に描いてみるといい
きっと悟るに違いない
自分もだれかのカムパネルラだ
そんな林檎を売っている
店はどこにも一軒はある
店の奥のほう
ひとつだけ眠っている
林檎くらいしかない
君に渡せるものといったら
林檎くらい
持っていってほしい
遠くからやって来て
遠くへと去ってゆく君に


自由詩 林檎売り Copyright やまうちあつし 2018-02-16 20:31:21
notebook Home 戻る  過去 未来