水虫ジュク夫「記憶喪失」
花形新次

脳が軟らかすぎて
耳と鼻から
流れ出てしまいそうなとき
朝の結露した窓を
人差し指でなぞる

「川」

唯一覚えている文字は
水滴とともに
もっと長い流れになって
やがて消えて行く

ずっと昔から
川しか書けなかったことも
もう忘れてしまった

そして、それは良いことだ

自分の過去を
鮮明に覚えていたら
自意識に押し潰されて
それこそ
「恥の多い人生を送って来ました」って
川に飛び込むことになるだろう

しかし、記憶がなくなって行くことで
私は自分がバカであるという
記憶からも解放され
初めてどんなに恥をかいても構わない
真の自由を獲得することが出来た
今まさに、自称詩人として
飛び立とうとしているのだ!

イボイボじじいは
イボだらけ
けつの穴にもイボ
顔面にもイボ
鼠径部にもイボ
だけど
イボコロリではコロリません

イボイボじじいは
イボだらけ
とても醜悪な顔を晒しても
どんな顔だか覚えていない

覚えていたら
いっそ飛び込んでしまうでしょう

私の頭の中のゴミ箱
もともとゴミしか入ってないけれど

だんだん空っぽになって行く










自由詩 水虫ジュク夫「記憶喪失」 Copyright 花形新次 2018-02-13 23:05:25
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