夜と言葉
木立 悟





積み重なった埃が
本を燃すことなく
本のまわりに燃えてゆく
背表紙と虫殻を照らしながら


奥に詰められた本に影は無く
どこまでも立ち並ぶ棚だけが
爆ぜる炎に揺すられつづけ
床に焦茶の波を寄せる


皮のにおい
窓の外の緑色灯
本の洞は深く高く
奥へ奥へとつづくばかり





鏡の手のひら
行方知れない光源から
白い線が描く冷たい輪
歪み 震え 降りて来る


風がひたすら来ては過ぎ
風はひたすら剥ぎ取ってゆく
二重の輪から
したたる水


風の錆や
水の錆
身体じゅうの窪みに
降り積もる口笛





短ければ短いほど鮮やかに
文字の羽は窓を覆う
ちぎれては消え再び生まれる
震えのかたち 震えのすがた


苦さ 苦さ
はばたきをなぞり
息の内に溶ける
小さな輪


暗がりとわずかな光の揺らぎを
熱がまわる 音がまわる
戻ることも飛び去ることもせず
文字は波の上をまわりつづける























自由詩 夜と言葉 Copyright 木立 悟 2018-02-12 13:48:35
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