のっぽのこ
黒田康之

小さな町の小さな家に
のっぽの君は生きていて
きゅうくつそうなテーブルで
ゆっくりポトフを食べている
小さな皿で二三杯
食べ終えると
君は背中を丸めて天井を見上げる

朝日の町の朝日の道に
のっぽの君は歩き出して
おだやかな太陽の光で
ゆっくりとゆうべの夢を燃やしている
大きな手で何回も
燃やし尽くすと
君は背中を丸めて靴紐をしばる

君が背伸びをすると
朝日が輝いたように見える
ゆうべの夢が風に舞って静かに土と空気にかえっていく
たくさんの小さな家から
君の深呼吸で
夜のさみしさもこわい夢も全部全部がかげろうみたいに燃えて
ひとりぼっちも怒りやなみだも全部全部が花びらみたいに飛び散って

大きな朝の大きな空に
のっぽの君は手をのばして
ながいながい影法師になって
たっぷりとみんなの朝を作っている
やさしい笑顔で百ぺんも
会釈をすると
君は背中を丸めて泣き始めた

いやなことは全部消えて
わるい夢は全部消えてって

君の涙で
昼のけわしさももろい欲も全部全部がせせらぎみたいに流れて
ひとへのねたみも悪意やうらみも全部全部がさざなみみたいに消え去って

だれも君の儀式を知らないけれど
誰もが君になる朝を迎える


自由詩 のっぽのこ Copyright 黒田康之 2018-02-11 22:11:46縦
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