リリカルな私
神坏弥生(涛瀬チカ)

リリカルな私 涛瀬チカ改め神坏弥生

例えば、白と黒の鍵盤に向かって
白から黒へ黒から白へと半音ずつ上げてゆきながら
サティを弾いてみる
午後に明るい日差しがさしてカーテンが
膨らんで揺れている
軽やかなリズムに乗って
オルゴールの踊り子が
ドレスの裾を膨らませながら踊り続ける

昼、食したアコヤ貝に一粒の真珠をのせて
ころころと転がしてみる
草にのった露のように沿ってゆく
一粒の真珠
誰かの涙だったようだ
私だったろうか
それとも彼だったろうか
記憶の中で想い出となり
宝石箱の中にしまわれる

私が彼を初めて見たとき
彼は無表情な横顔を見せていた
私のそばで彼の友人が
彼の名を大声で呼んだ時
初めて彼はこちらを見た
冷静な態度で
私たちが二人であることに
それほど時間はかからなかった
;愛してる、あなたは?;
;ああ、;
そう頷くだけだった人
だから、二人が一人に帰るのも早かったのかもしれない
二人が一人に帰る時、あなたは、さよならを短く話した
私は黙って聞いていた
あなたは相変わらず冷静な態度のまま

 







自由詩 リリカルな私 Copyright 神坏弥生(涛瀬チカ) 2018-02-10 21:40:33縦
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