断片
鷲田

1
歩いている橋の下を流れる川は澱んでいる
ぬかるんだ川の底では水の香りは土の茶色に掻き消され色彩を失う
透明な景色を一体どこで見ただろう
眼に見えた草の形は項垂れていて 写真には真っ直ぐに伸びた樹が映っていた
橋の上から見える街並みに浮かぶ一つの雲
真っ白な記憶は今や鈍感に犯されている
沈殿よ お前はそのまま行くのか

2
世界を流れる数多の感情が出した答えは単純である
水面に落ちた市場の石が流転して世界を飛び回る
特別な想い出はどこかにしまわれ、スクリーンに映る数字が全てを表わす
電車はゴトゴトと日常を奏で、人間の生活が溢れる
神経質な一つの欠片が不協和音を奏でる
大きな失敗とは小さな成功の積み重ねなのだ
ニューヨークでの出来事が、東京での悲観に繋がり
香港での落胆が、上海での希望に変わっていった

3
冷え切ったコンクリートの硬さに風は何時もより体の芯に響く
寒さが歩いて行くのが見える
街の言葉は許された僅かな秘密
駅前にあるレストランは名前を変えて新しいレストランに変わっていた
どこかに忘れた夢は現実に打ちのめされ彼方の空に舞っている
年の瀬の明かりに「ただ孤独である」と男がタバコを吹かして言った
その孤独に塗れた甘味はやがて喉元を抜けていく

4
雪が降ったある日の女の神経は過敏だった
見えない物事が意味を語りだし 白く積もった雪を踏みしめる歩みは永遠に続くようだった
テレビの音は響き、出演者は家の中で隣に座った
あらゆる声が耳に響き、雑音が会話となる
混雑とは苦痛で、体力は疲労に犯された
女は鈍い男に恋い焦がれその出現を願った
やがてその思いは眠りへと誘われ、道に残った雪は次第に溶けだした

5
新しい景色は暗い闇から現れる
「冒険は生きている限り続くのだ」と折れた樹は語った
明日を見ること それは決意に他ならない
年が過ぎて構図が浮き彫りになる
力とは捻じ伏せることだけでなく、不満を語ることでもあった
仕事の後に立ち寄る居酒屋にあふれる熱気
人は無意識の内に人を傷つける

6
君が取っている行動は正しい 感覚は姿を変えない
その正しさは数年経って初めて真に正しくなる


自由詩 断片 Copyright 鷲田 2018-02-08 23:12:21縦
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