為平 澪

詩集を本棚から探していると 中指に小さな棘が刺さった

複雑に絡まった女同士の
読み解く方法があったなら 私は重荷を捨てて
やすやすと違う名字の人と 暮せただろうか

古家
あまりにも濃い血をもつ 女同士の住処
距離も依存も馴れ合いも我が儘も屁理屈さえも
鏡に映して叩き壊せば 綺麗な朝は笑顔で訪れた

間に居た父が亡くなり
お互いがお互いを監視しながら 自由に生きたいと叫び
悦ぶことも手放すこともできないまま
手を繋げば繋ぐほどに 息苦しいだけの私たち

背表紙に棘を忍ばせていた その詩集は
母親の名を二重線で消し
産道から生まれたのは 自分と恋人だと認めてある

   チクチクと中指の痛みが 疼きに変わり 
   棘は血流に 飲み込まれていく

詩集に絡まっていた棘が 
女の見えない部分をゆっくり流れていく
それはいつしか巨大な肉腫に腫れ上がる

医者はその時 手遅れだと宣告し
母の後を追うようにと 毒入りの
真っ赤な坩堝を手渡すだろう

             ※

詩集を本棚から探していると 中指に小さな棘が刺さった

棘は私を決して赦さない
それでいい それでもいい

私は何かに謝りたかったのだ
絡まり続けた糸が いつか解けるように、と
夢を見ながら 今夜 血の池に沈む


自由詩Copyright 為平 澪 2018-01-29 22:16:40縦
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