優しい殺し屋
まーつん

そのビー玉の中に
小鳥が住んでるよって言ったら
少女は指で弾くのをやめて、
目を細め、陽の光に透かして
覗き込むようになった

そのボールの中に
昔亡くした筈の子犬が
隠れてるよって言ったら
少年は蹴るのをやめて
抱きしめるようになった

少しの間、
追いかけるのをやめ
立ち止まる為の
きっかけが欲しくて
大人達がつく、嫌らしい嘘

私たちが、神様から
この星の管理人を
任されているのだとしたら
何故とうにクビにされていないのか
不思議でならない

死刑台の列に並ぶ家畜
野獣からへし折った白い牙
ある気持ちのいい日曜の午後
猟銃で頭を吹き飛ばされた小鹿の死は
誰かの気晴らし

銀色に煌めく鱗の群れ
釣り上げるよりも共に泳ぎたい
そう思って飛び込んだ子供が
冷たい水に、切り刻まれた
それからというもの、誰にも、我が子を
船から飛び降りさせる勇気はなく
釣り針を投げるばかり

もう随分と長い間
神様が戻ってこない
この美しい緑の庭に
累々と横たわる獣の躯
楽園に咲き乱れる
死の花の間をさまよう
迷子の大人たち

どうしたらこの星を
逆に回せるだろう

どうしたら
すべての過ちを
無かったことにして
やり直せるだろう

銃を捨てた
優しい殺し屋が
血にまみれた手で抱きしめる
産湯から掬い上げた
新しい命を

優しい殺し屋に
抱きしめられるとき
君は泣くだろう
何故かもわからないまま

優しい殺し屋の指先が
君の頬を優しく撫で
血の跡を残す時

君は泣くだろう
何故かもわからないまま



自由詩 優しい殺し屋 Copyright まーつん 2018-01-29 21:23:18
notebook Home 戻る  過去 未来