浮遊する椅子
Seia

あなたはいわゆる超能力者なのですか?
と聞かれました。
わたしはそれにうまく答えることができませんでした。
やわらかい否定も不確かな肯定もしたところで、
ただの時間稼ぎにしかならないと思っていました。
証人喚問のような空気に耐えられず、
偏頭痛がひどいという仮病に頼り、
カビ臭い布団をかぶって耳をふさいでいると、
目を閉じた記憶もないまま寝てしまっていました。
たぶん何度目かのチャイムのあと、
無音の保健室を出ました。

西日が窓ガラスに当たってすこしだけ角度がかわる
渡り廊下の端で
雑巾を手にしたわたしが立ち尽くしている
この階にはだれもいない
ひたひたと水滴が落ちる
はじける
ひざをつく
この階にはもうだれもいない
そとからみても
がらん
後ろでバケツがころがって
空き教室の椅子がひとつふたつ浮いた

屋根の上を点々と歩く夜は静かでした。
月も星もない空ですが、
何かしらのあかりは存在していて、
コンビニでも、
街灯でも、
自動販売機でも、
朝へ向かう闇の中を繋いでくれています。
昨日あったことを話す相手はいません。
時間の流れはとまらずに、
カーテンをしめるしめないで争っていた知らない生徒の声が、
だんだんと消えていくのを感じます。
赤く点滅を続ける信号機は、
それ自体が街の鼓動のようです。
とおくに車の音。


自由詩 浮遊する椅子 Copyright Seia 2018-01-28 21:43:21
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