千の色に染まる水
まーつん

散らかった部屋を掃除したら
埃を被ったガラクタの下から
顔を出す思い出が一杯

浜辺に打ち上げられた
ペットボトルの溺死体みたいに
塩辛い記憶を吐き出した

僕は年老いた若者
時の目を掠め忍び行く老人

自慢じゃないけど
この狭い部屋の中で
広い世界を旅してきた

ある日、窓の向こうを眺めていたら
雲の上に立つ神様が見えた

白いひげの老人のようにも
無邪気に笑う少女のようにも見えた

神様は
始まりの光をその指先で弾いた
光の破片は無数の色になって
薄暗くて汚いこの世界の
あちこちに散らばった

千の色は覚えきれない
その総てを、美しいとは言えない
僕もまた、自分の心の色に染まっていて

だから、君のことを
好きになれるとは限らない

完全な愛を知るのは
完全な透明だけ

総ての色を受け入れられるのは
色を持たない透明さだけ

なにものにも染まらない水が
紅い怒りに蒸発し、蒼い冷静さに凍り、
黒い絶望と白い救いの間を
流れ落ちたり、遡ったりして
小さな滴の一つ一つに分かれながら
各々の色を見つけていく

人って多分
そんな生き物なのだ

丘に咲く一面の花は
好きな色で各々を着飾る

部屋の床を埋め尽くす
ガラクタの下から
僕だけに見える千の色
その総てを覚えてはいられないけど

あの花が着飾った色も
すぐに忘れてしまうけど
いつかまた思い出す時が来るのだろう

総ての心が流れ着く
あの場所で



自由詩 千の色に染まる水 Copyright まーつん 2018-01-21 14:37:52
notebook Home 戻る  過去 未来