すんでのところ
坂本瞳子

鍵が合わない
鍵を合わせる
洞窟の通路を進んで
行き止まりにある扉の
ノブは錆びていて
左手に抱えた鍵の中から
その一本を探し当てる
早くしないと一つ目の
巨人が此処にやって来る
擦り切れたかじかんだ手で
一本ずつ鍵を穴に差し込む
まるで受け付けられない
鉄の棒もあれば
途中までしか差し込むことが
できない棒きれもあるけれど
早くしないと蜘蛛が降って来る
蛇が這って来る猛犬どころか
想像し難い獣が襲いかかって
来るだろうけれども
松明掲げた一つ目の巨人は
そこやかしこを曲がりつ戻りつ
足音を響かせて近づいてくる
早くしないと捉えられる
妖精が飛んで来て金の粉を
振り撒いてはくれるけど
イタズラに過ぎない
竜巻や台風が助けにはならない
洪水などもってのほか
時計を手にした兎を追ってはいけない
鍵を一刻も早く鍵を合わせなければ
鍵をなんとか鍵を合わせなければ
ならないのだけれども
冷えた手がいうことをきかず
血飛沫あげない擦り傷が痛み
目眩さえもしてくるけれど
この鍵を開けてしまわないことには
なんとも先に行けない
あれこの鍵は先程試したのでは
なかっただろうか
なにがなんでもいいからどうも
早く鍵を開けてしまおう
蹴飛ばしても拳を振りかざしても
非力な自らの四肢が傷つくばかり
痣が増えるばかり赤や青や紫や
合う鍵はないのではないだろうか
そんな気さえしてきたけれど
そこへいよいよやって来たのは
一つ目の巨人がグルルグルルと
喉唸らせて涎を垂れ流し
一歩大きな音を轟かせ松明を見せつけ
また一歩大きな音を轟かせ
近寄ってくるその姿に正面切って
立ち向かおうとするのではなく
ただ呆気に取られて見上げたけれど
怖気づいてはひるみ圧倒されて
仰け反った背中で押したドアノブが
カチリとなって時を止めた


自由詩 すんでのところ Copyright 坂本瞳子 2018-01-16 23:37:46
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