柔らかな感触の骨と身
こたきひろし

これから咲く花
もうすぐ終わる花

今は咲いている花
枯れ落ちた花

夕暮れ
帰路を急ぐ人で溢れていた駅
彼は自分を見失いそうになっていた

帰る家と帰る理由

解っていたつもりだけれど
胸の底から込み上げてきたのは空しさ
言葉にならない空虚

人が川みたいに流れていた
その流れに任せるように改札口をでる

それは
突き出た岩に流木が引っ掛かるのに
似ていたかも知れない

彼は足を止めて何気なく空を見上げた
しみじみ空を見るなんて無くなっていた眼で

それから背後に振り返った
しかし
流れてくるのは知らない顔ばかりだった
空耳だったか
誰かが遠くからしきりに名前を呼んでいるような
気がした

その時
彼は腹部に激痛を感じてその場に倒れこんだ
邪魔なんだよテメエ!
知らない男だった
一声怒鳴って不敵な笑いを浮かべた
その後は人混みに紛れて消えた


女性の悲鳴が上がり
倒れて苦しみもがいている彼の周りに人だかりが
出来た


彼は自分に何が起きたか理解できなかった
ただ空虚な思いからは
いっぺんに解放された


自由詩 柔らかな感触の骨と身 Copyright こたきひろし 2018-01-13 07:26:52
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