おおきなプリン
ただのみきや

おおきなプリンを見た
まわりの商品が小人に見えるほどの
こどもの頃出会っていたら
一目で恋に落ちただろう
ぷるるんあまいときめきは
すぐに終わってしまうのが常だったから
記憶の中の憧れは今も色あせず
よどんだオヤジ心をも揺らすのか
ああだけど
こんなにたわわなぷるるんを
欲しがるのはきっと
むかしのこども
いまはもっと洒落た装いで
甘すぎない ぬったりした
スイーツなんて名の
大人びた娘が流行っていて
親たちも砂糖とかカロリーとか考えて
ぷりんぷりんのGカップなんか
買い与えようとはしない
きっとだからたぶん
むかしのこどもたちが
それもダイエットなんか気にしない
むかしのおとこのこたちが
面の皮で恥じらいを隠し買って帰り
家族のちょっと呆れたような視線を
まるめた背中で受け止めながら
おもむろに蓋を開け あるいは
プッチン と 皿の上
あの縦長のやわらかなボディが
むにゅっ と
重力で押しつぶされれば
(きみって意外と あれだね
なんてあたまの中でささやいて
カレー用かと思えるような先割れスプーンで
ふだん隠した嗜虐性を示しつつ
最後まで平らげてはみるものの
かつての喜びや感動はすでになく
甘すぎては
腹にもたれ
同窓会で味わうような
ある種の幻滅に
ただ老けて往くだけの現実に
番茶で口を濯ぐ
粉薬みたいな顔をして
自分のカップに閉じこもろうとする
だがもう手遅れだ
一度プッチンして皿に落ちた
プリンは二度と戻らない
夢を見ていたのだ そう
おおきなプリンの夢を



           《おおきなプリン:2018年1月10日》









自由詩 おおきなプリン Copyright ただのみきや 2018-01-10 19:27:23
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