寒梅狂
坂本瞳子

凍える肩を震わせて
傘の柄をつかむ手はかじかみ
降りしきる雪の中を歩き続ける

もう少しでたどり着く丘の上には
梅の花が咲いているだろう

犬に吠えられようと
何度も転びそうになろうと
ゆっくり焦らずに歩を進める

吐く息は白く
すでに感覚を失った爪先で
あともう少しだからと
自らをだましだまし

淡い期待は裏切られる
いとも簡単に

剥き出しのか細い枝々は
白雪を積もらせようと
天へ向かってそびえ立つが
その先に点した蕾はまだ固く

春はまだ遠いと思い知らされる

もうこのまま
ここで朽ちてしまいたいと
思うけれども

雪が降りしきる中を
家路につく

凍える肩と
かじかんだ手と
感覚を失った爪先と

犬に吠えられ
焦らずゆっくり
歩いて行く

またしばらくして
丘に登り
そのときにはきっと
梅の花が
赤々と開かれた花弁を
拝むことができるだろうから
その日を夢見て
今日も進む

真冬の寒さを身に沁みて
遠き春の暖かさを求め
今宵も彷徨う


自由詩 寒梅狂 Copyright 坂本瞳子 2018-01-07 00:28:18
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