遺された春(3)
渡邉建志


死んだ君が極限にまで死に近づく事を語った春の夕暮れ

死を口にするのはこれで最後にしよう波打ち際のような憂愁







桜がこわい。きみはそう言った。春の夕暮れ。
汽車が(ノクターン、ノクターン)、と走る。その中で
過ぎ去っていく。すべてのものが。そして、わたしたちが。
わたしときみとのあいだが。桜がこわい。僕もそう言う。
桜はいつか散る。満開の桜がこわい。もうすぐ散ってしまうのだもの。
そうね、咲き初めの桜が一番きれい。まださきが残っているもの。
わたしときみは、たぶんいまが、満開です。


(のくたーん、のくたーん)


とおい丘に散る花びらは春の雪のよう。
寄せては返す波のように、劇的に、はやく、あるいは穏やかに。
ねえ、あなたあの花のもとで火のように死にましょう。
 
 


未詩・独白 遺された春(3) Copyright 渡邉建志 2005-03-16 17:23:34
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