仮構
葉leaf



多くの郵便物が飛び立ち、多くの郵便物が開封された。極秘文書や契約書、冊子に至るまで、この事務所は港のように吸い込んでは吐き出す。多くの人たちの人生の中枢がこの事務所に呑み込まれていて、人々は郵便物のように集まっては飛び立っていく。社用車は駐車場に整然と並べられ、行軍しては鈍く世界を反射する。人々は自分のデスクの前に座り、遠い沙漠や遠い海からの輸出品でできたコンピューターに複雑な表皮を映している。生きることに理由はいらない、死ぬことに理由がいらないように。事務ミス、ハラスメント、災害、個人の悩み、事務所の悩み、すべてが合一する位置が必ず存在するはずだ。危機管理、コンプライアンス、透明性、説明責任、メンタルヘルス、仕事はスリム化され効率化され解毒されていき、零点に収束するものと無限に拡散するものが等しく執行されていく。無尽蔵に消費されていく労働、いや消尽していく労働というべきか。給与は労働の対価ではなく、承認こそが労働の対価であり、上司や部下・同僚に頼られることや自ら達成感を感じることにこそ労働の祝祭性は宿るのだ。労働は血や性の匂いがする。労働は混沌とした生臭い情熱に突き動かされながら、仮構された論理や秩序に則ってフィクショナルに展開していく。すべてが劇中劇であり、すべてが作為的なテクストに過ぎない。実存が仮構され、仮構されたものが実存に食い込む。生臭い根源と秩序立った筋道とが交互に追い抜きながらこの事務所には明日が育っていくのだ。時制はいつでも未来形であり、この事務所には未来の仕事しか存在しない。人々は未来の舞台の上で己の内臓と他者の内臓との辻褄を合わせている。さらば人文学、その狭隘な自意識に飽きた。


自由詩 仮構 Copyright 葉leaf 2017-12-29 12:04:48
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