思い違い
春日線香

思い違いをしているのではないか

君は寝床に身を横たえているのではなく
もういつの時代に作られたのかも
さだかではない古い古い風呂桶の中に
身ぐるみ剥がされたままの素裸で
(しかも生温い蒟蒻が浮かぶ水に)
乱暴に放り込まれているのではないか

なんら保証を持たないのにもかかわらず
心の底から幸福だと思い込んで
幸福が永遠に続くのだと思い込んで
なかば意識を失っているのではないか

両手に赤い箸を握りしめては
時折、腐りかけた蒟蒻を刺しつらぬき
口から泡を吹いて喜びながら

いかにも大層なことを成し遂げたと
いかにも不可能を可能にしたと
有頂天になってはいるものの
その実

蓋を被せて釘を打ちつけた風呂桶に
たった一人で封じられて
暗い夜を運ばれていくのではないか
高速道路を西へ運ばれていくのではないか


自由詩 思い違い Copyright 春日線香 2017-12-28 21:20:33
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