Misery Christmas
のらさんきち

ネオンサインの海を往く
もじゃ髭の老夫
くたびれた大きな袋を引き摺るように
あの中には
子供たちの願いと、欲と
資本主義が入っている、らしい
その重みは絶えず
彼の腕を苛み
老いた腰を軋ませる

  サンタ・クロース
  あなたはこの聖夜に何を望む
  誰もあなたを知らないくせに
  誰もがあなたを愛している

煙突さえも見下ろす高層マンションを
ひと部屋、またひと部屋と巡り歩く
彼の腰は悲鳴を上げる
かの子供らは明くる朝
目覚めて喜びの声を上げるだろうか
十二月、僅かに増えたお小遣いに

マンションの陰には
隠されたようにひしめき合う
小さな家々
父を知らぬ子供らが
寝床で母の帰りを待っている
来るはずもない彼の訪れを待っている

彼は
悲しそうに首を振って
暗がりの中へと消えていくだけだ

  サンタ・クロース
  あなたはこの聖夜に誰の笑顔を望む
  誰もがあなたを愛しているのに
  誰もがあなたの愛を貰えるわけじゃない

全ての贈り物を吐き出してなお
袋の重みはいや増しに増す
残された最後の仕事は
この札束を届けることだ
摩天楼にまします
彼の主の元へ
その重みは一層
彼の腕を千切らんばかりに苛み
老いた腰を砕かんばかりに軋ませる

  サンタ・クロース
  あなたはこの聖夜に誰を想う
  誰もがあなたの愛を貰えるわけじゃない
  また、あなた自身さえも

時計の針はとうに十二時を回り
魔法の解けた老夫は
今やただの老いぼれに戻る
家路にて
半額品の萎びた唐揚げと
缶チューハイを買って帰り
独りで今日の仕事の疲れを癒やすのだ
誰もいない
クリスマス・ツリーも無い部屋で


自由詩 Misery Christmas Copyright のらさんきち 2017-12-25 04:39:44
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