5時間目:英語
吉兆夢

透明な chaim がひびく夕方未満の空めがけ、A-4 型機(テスト仕様)は仮定法過去を超えて飛ぶ。

時間割がキリキリ擦れる相変わらずの Thursday。
パネルの割れた smart phone が①ヶ月間もったならとか Instagram のフォロワー数がせめてあと⑩増えたならとか file に押し込んだ have to がぷすぷす言い出した教室で僕ら pull switch を引きちぎった換気扇みたいに喋って喋って喋りつづけてヒリヒリの咽に w の絆創膏を貼っては噎せこみ偶にめくり火傷を見せ合ってはご丁寧に貼り付け直してまた喋りつづけてる(そして噎せる)。
窓際禁煙席のメガネスマシは今日も Open your text を無視して比較級をさらう指が短い breath を告げる tact だ。彼女が指した窓の外では遥か2ヶ月前の僕らがせまい ground で儀式をおこない加藤がまた fly を上げて顧問の山田の罵声が飛ぶ。僕は bench で glove を嵌めた左手を握ったり開いたりしながら次のアナウンスを待ちかまえていたけれど予想に反し ball は野手の手を逃れ、走っている加藤が走っている鈍足加藤が腹を揺らして最高タイムで迫る突っ込む転がる second 「スリーアウトチェンジ」、chaim が鳴る。 
五時間目の英語の授業は economy mode で進んでいく。お尻のしたで燻る have to と脚注から燃え移っていく should で今や排熱の間に合わなくなった教室では処理落ちを起こした classmates の首がカックンカックン沈んだり blackbord の文字の羅列に白いモザイクがかかったりする。教壇では自称 toeic 800点の青ヒゲが自信に満ちたカタカナ英語で仮定法過去を説明していた。もし何々だったなら何々なのになぁ、お前らの得意分野だろ。もしタケコプターがあったなら空を自由に飛べるのになぁ!右隣では喋り疲れた木村が ospray の轟音を響かせ夢の世界を飛行していた。左の吉田にいたっては起きている姿を見ていない。これがオセロなら次は僕の番のはず、なのにいつまでも眠気は訪れず窓の外が気になって仕方なかった。
" If i were a Liberty BiRd , i would Fly to be a ChicKeN. " 
campus note の走り書きに卵の殻から顔だけ覘かせた chiken の絵を添えて紙飛行機を折る。木村の turboshaft engine に比べるべくもない静かな飛行で A-4 型機(テスト仕様)は狙い通り窓側禁煙席メガネスマシの足元に軟着陸した。英和辞典を繰っていた繊細な指がぷすぷす煙を立てる機体を摘みあげそっと折り目を引き開ける。score を確かめるように英文をなぞり、for a moment 、目が合う。思いがけず返ってきた苦笑。うっすら煙り始めた窓際禁煙席。みるみるうちに breath の場所を失っていった僕は Carp の元ゆるキャラみたいに口をパクパクさせるけれど視界はどんどん white out してゆき、延々と I wish を繰り返す青ヒゲの声も、教室で騒ぐ classmates の声も、慰労会で cap を握りしめながら笑う顧問の声も、廃品回収の拡声器みたいにゆらゆら遠ざかって、僕は、いったい、どこにいるのだろう。どこに、いけばよいのだろう。どこに、どこに、どこに?
とん、と肩先に何かがぶつかる。辺りを見回すと机の脇にひっくり返った飛行機が。開いたそこには殻から出られない chiken その口から吹き出しが伸びて几帳面な綴りが叫んでいる。
" have to < should < WANT TO ! "
時間割がキリキリ擦れる相変わらずの Thursday。窓際禁煙席のメガネスマシは今日も Close your text を左に流して比較級をさらう tact の指し示した窓の外、あの日の ground ではまだあの日の僕がひとり足踏みしていてマウンドから去る加藤を「どうして走ったんだよ」と詰っていたけれど「時が来たんだ」と嘯いたきり鈍足加藤は行ってしまった。 気づけば僕の故障した右手には bat が握られており、野手が飛球を取りこぼす――走った僕は走った半年間の bench warmer が雲を切り裂く ospray が最高タイムで迫る突っ込む転がる second 「スリーアウトチェンジ」―Do your Best!―

 君の告げる最上級で教室中の窓が BroKen! BroKen! BroKen!





自由詩 5時間目:英語 Copyright 吉兆夢 2017-12-24 12:12:00
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