王さんと会った日
服部 剛

うぉるふがんぐという店で
お茶を飲みつつ詩を書いて
ふと顔を上げたら
王さんが食事をしていた

ユニフォーム姿の頃より
齢を重ねて今年喜寿の
王さんは
大柄でもなく
素朴な姿の内に
揺るぎ無い「一本足打法」の
筋金が通っている

――懐かしのテレビ画面が甦る

四十年前の後楽園球場の
夜空に舞い上がる
世界一の白球

(打った瞬間の感触は無かった)

諸手を上げる王さんは
一塁…二塁…三塁ベースを
ゆっくり走り
ホームベースで
待つ仲間に迎えられる

――その夜、昭和の日本は湧いたのだ

しゃがんで渡したメモ帳に
漢字三文字のサインを
もらった僕は
そっと名刺を渡し
世界の王さんは
気さくに、尋ねる

「ペンクラブって何を書くの?」
「野球の魅力も伝えるようにがんばります」
「そう、がんばってね」
「ありがとうございます」

深く頭を下げた僕は
コートを羽織り

店を出た  






自由詩 王さんと会った日 Copyright 服部 剛 2017-12-21 22:16:18縦
notebook Home 戻る  過去 未来