僕の少年
山人

薄くひらかれた口許から 吐息を漏らしながら声帯を震わす
まだ 生まれたての皮膚についたりんぷんを振りまくように
僕の唇はかすかに動き なめらかに笑った

足裏をなぞる砂粒と土の湿度が おどけた動きをリズミカルに舞い上がらせ
僕はその 遊びの中で
くるくる回りながら気持ちを高揚させていた

土埃の粒子が何かにエネルギーに吸着され 一度残酷に静止した
世界はやはり 僕の回りで凍り始める
--あなたから発せられたひとつの言葉--
静かに細胞は壁を破砕し 平らに横たわっている
ジャングルジムの鉄の曲線に 僕の眼球は一瞬凍りつき
やがて ぐらりとそのまま土の上に落下した
僕の中の仔虫たちは惨殺された

緑の林縁はオブラートに包まれ 目はしなだれた
複眼に覆われた ぼんやりとした視界があった
土を丸く盛り 仔虫をひとつづつ埋葬し目を綴じた

あの日 僕の中の少年は
--あなたから発せられたひとつの言葉--
によって撃墜された


*

たおやかに流れる豊年の祝詞の声
村々にたなびく 刈り取りの籾の焼けるにおい
はるか昔の 少年は
薄く染められた秋の気配に
どこかの葉先の水滴に 映し出されている
僕の中の少年はまだ死んでいるけれど
少しづつ僕は
ながい呪縛から抜け出そうとしている
ゆるやかな階段を降りるために


自由詩 僕の少年 Copyright 山人 2017-12-16 08:59:58
notebook Home 戻る