どらびだの駅
「ま」の字

  
いま どらびだの駅だ
むかし おなじ名まえのくにを紀行したが
もうずいぶん前だったので
ぼうぼうとした
かぜの中あたりで 周囲を見まわす
駅舎があるとは知らなかった
いや
とうの
昔に放棄されたものでも

おうい。

おうい いるかぁ。

だれも いないと知っている
おうい。
林檎のかたちの石
をなげるように よびかけるのだった
そもそもが
荒いみなみ風が 次々おしよせる
土地だった

ながく ちいさい草の穂が
思いおもいにゆれるなかを
ずいぶん荒れたなあ
と 歩きながら 呟く
海がちかい
とおもえば殺風景な海岸があらわれる この国
領域の終わりはくぎりもなく
たしかに
やわらかく ながい眠りに落ちてゆくばかり
ここは夜に囲まれた
広大な昼のくにだった

夢はうつつに勝てない
そろそろ 貨車に載せられそうだ
こうやって、けりも付くかつかぬかわからぬうちに
引っさらわれるように、連れ去られる
どうだふかふかと いっぷく喫わせてもらいたまえ
予感だけは すこしある、夢とは
そういう寂しい者の
たわ言だ現実は
そりや先がみえないからね
と もの陰で
なにかが無粋につぶやいた

駅舎にもどる道ばたですこし吐いたけれど
いっこう その記憶がのこっていない
まあ、このいろの剥げたベンチにすわれ
(臭いもない)
この国は
どこまで夢で
いつから醒めたのか おうい。
おういむかし
みんなでここで 遊んだね!
 ・・・・・・・

ここは夜に囲まれた
ひどく広大な
ひるのくにだ




自由詩  どらびだの駅 Copyright 「ま」の字 2017-12-03 20:47:55
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