置き手紙のないさよなら
松岡宮

移動のないお引越し
段ボールのなかで静かに壊れた花瓶
汗ばむ手のひらの裏側の世界で
空き瓶のなかの船は海難事故に遭ってしまった
あっという間に冬が来て
アパートの押し入れで布団袋のなかに隠れた少女は数年後の白骨死体
震災の火事で焼けてしまった箪笥のへそくり
行方不明の同級生が5年前に亡くなっていたと知ったのは今日のこと
言えなかった言葉があったような気もするけれど
落ち葉や糸くずは絡み合って沈殿したまま
そのまま 
そのまま
行く場所もないのに消えてしまうものがあるのね
いつも後から気づく
わたしたちの愛はあのときすでに終わっていたと
通知のないお引越し
置き手紙のないさよなら
月経が終わった


自由詩 置き手紙のないさよなら Copyright 松岡宮 2017-11-30 00:20:48
notebook Home 戻る  過去