朝食林檎ヨーグルト
のらさんきち

艶めく林檎の滑らかな膨らみに
包丁の刃を当てて一息に押し切る
迸るエチレンの醇香
生まれ立ての双子は
仄かに黄味がかった白い果肉を
更に真白な俎板の上に
投げ出していた
あられもなく

僕は無慈悲にも
その片割れをうつ伏せに押さえ付けて
次々と刃を這わせていく
初めは優しく
撫でるように奥へ
やおら猛々しく
一気に手前へと引き切る
ひとつはふたつに
ふたつがよっつに
まるであどけない櫛

そのひとつひとつを抱き上げて
つんと尖った尻に刃を差し入れ
強張った芯を抉り取る
そして僅かに纏った紅い衣の下
包丁を滑り込ませ
なだらかな曲面に沿って
少しずつ、丁寧に
その肌を露わに剥いていく
甘い蜜で微かに濡れた俎板には
横たえられた林檎の裸体

まだだ!
まだ、辱め足りない!
満たされない嗜虐の心が
荒々しく刃を駆る
均整の取れた肢体を残酷に刻んで
白濁した発酵乳の泉に沈めていく
次々と、無造作に

ああ、慈悲深い神など存在するものか!
救いの手の代わりに差し伸べられた匙は
すっかり醜い姿と成り果てた果肉を掬い
救いなく穢れた僕の口へと運ぶのだ
嘗て禁断の果実と呼ばれたそれは
こうして自らも
楽園を追われし罪人の一部となるのだ

やがて最後の一片が咀嚼され
僕の内なる暴虐は
満たされて再び深い眠りへと
残された善良なる僕は
器にこびり付いた白い残滓を
淡々と洗い清める
まるで何事も無かったかのように

そして朝刊を広げる
天気予報が晴れを告げている
良い一日である


自由詩 朝食林檎ヨーグルト Copyright のらさんきち 2017-11-24 20:45:07
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