大学時代の先輩と飲む
北村 守通

かつて
ともに歌った
歌の
楽譜のページが
にじんで
黄ばんで
ぼやけたとしても
私のことを
呼び捨ててくれる
あなたの声は
変わらぬ
大きさで
私の背中叩く

かつて
ともに
風呂に入って
洗った
二人の髪が
今では
見る影も
なくなったとしても
私のグラスに
酒をついでくる
あなたの顔には
今でも
変わらない
満面の笑みが浮かぶ

今では
変わった家族のことや
今では
変わった住処のことや
今では
変わった趣味のことや
あれや
これや
肴にして
夜は進む

今では
泊まれなくなった
大学を通り過ぎて
今でも
大きな背中の後ろ
歩く

語る言葉が少なくなっても
語るべき言葉が見つからなくなっても
駅までの距離が短くなっても
ふらつく足元の
記憶があいまいでも
あなたの背中はくっきりと見える

忘れ去られそうに
なっていた記憶のかけら
忘れ去られそうに
なっていた自分自身
引っ張りあげて
思い出させてくれた
最後の
最後まで
面倒見てもらった

やっぱり
あなたの背中は広い
やっぱり
あなたにはかないやしない
やっぱり
あなたの顔
まっすぐ見据えられない
やっぱり
あなたが
先輩でよかった

この次は
いつか
会えるでしょうか
この次が
いつか
来る日を信じます
この次は
もっと
もっと
話をします
この次は
必ず有給休暇とります

  明日はたぶん
  二日酔いなんでしょう
  明日はたぶん
  頭が痛むのでしょう
  けれども
  それは
  あなたと会えた証し
  消えないでいて欲しい
  あなたと会えた証し


自由詩 大学時代の先輩と飲む Copyright 北村 守通 2017-11-22 01:40:09縦
notebook Home 戻る  過去 未来