あなたの心、買い取ります。
愛心

心臓が軋む音がする

そろそろ「換え時」か
僕は店の扉を叩いた

狭く埃っぽい店内
目の前には小さなショーケース
レジスター 天秤 キャンディーポット
店主は古ぼけたテディベア

ここは心を売る店

テディベアは今流行りのAI
首のリボンから流れる
音声案内を聞き流して
僕はキャンディーポットから
飴玉を1つ取り出し呑み込んだ

ああ 甘い ああ 苦い
飴玉はガラス玉
冷たさは 鋭く砕け 喉を内側から抉る

痛い

急いでハンカチを取り出して
ぽろりと溢れた涙を受け止める

僕の心はなんて脆い

ハンカチの上で光るのは
薄いガラスのハート
1センチ程度のハート
僕の弱いハート

ぽろぽろとぽろぽろと
止まらない涙
これだけあれば十分か
秤にのせて 釣り合えば
傷を知らない 鉄のハートを手に入れる

傷つくものか もう二度と
鈍色のハートを 口に含めば
さらりと溶けて 体に馴染む

心臓は規則的に
涙腺には蓋をして

僕は強い心を手に入れた

静かな心持ちで 僕は店を出ていく

「ゴ購入 有難ウ御座イマシタ
マタノゴ利用ヲ オ待チシテオリマス」







ピ ピピ ピ ピー
ピー ピー ピッピー

「ゴ主人様 オ客様ノオ帰リデス」

「鑑定ヲ オ願イ致シマス」

了解です。
スリープモードに移行してください。

「承知シマシタ すりいぷもおどニ 移行シマス」

キュウウウゥゥン

プツン






あのお客は上客ですね。
相変わらず純度の高いハートです。

もともとね、ガラスのハートっていうのはとても希少なんです。

近年、優しい人、真面目な人、純粋な人ほど 生きにくくなっている世の中です。
人々は 自分の身を守る為に自然と、ハートの素材を頑丈な物に変えてしまう。

そんな中 ガラスのハート、しかも透明度が高く、歪みも殆どないハートなんて、細工師やコレクターが札束積み上げて交渉にやってくることでしょう。

彼のガラスのハートは、彼の誠心そのものです。

光に透かしてご覧なさい。
沢山のことに傷つきながらも、一生懸命に生き抜いてるハートの美しさは。
細かで丁寧なカットが光を反射して。
下手なダイヤモンドなんかより、ずっと美しい。

これはね、弱い心なんかじゃない。
美しい心と言うのですよ。



自由詩 あなたの心、買い取ります。 Copyright 愛心 2017-11-21 23:46:54
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