始まり始まり
坂本瞳子

風の音が残る
この耳の奥で
ゴゴウゴウと
耳障りでなく
ただ繰り返し
鳴り響いてる
廃墟であろう
アパルトマン
五〇五号室
どうしてココに
辿り着いたか
そんなことすら
覚えていない
もう動かない
エレベータを
蛇が這うように
雁字搦める
螺旋階段は
天に向かって
そびえ立つが
このブリキの
錆だらけの
重々しい扉
その向こう側
なにがあるか
期待と不安
不安と期待
速まる鼓動
手をかける
ドアノブは
傷だらけで
凹んでいて
両手のひらで
包み込んで
力を込めて
右へ廻して
一ミリごとに
音を立てて
ケダモノが
全身の毛を
逆立てて
喉を鳴らす
かのように
音を立てて
やっとのこと
ガチリと響く
右の限界が
知らされる
前へと押すが
叫びを上げる
別のケダモノ
キキィキキィと
それでも肩に
力を込めて
前へ前へと
勇気をもって
押し進めると
ほんの少し
隙間ができた
やっとのことで
そして見えた
向こう側には
拡がっていた
真っ暗な闇


自由詩 始まり始まり Copyright 坂本瞳子 2017-11-19 00:13:09
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