種を蒔く人
のらさんきち

三万粒の種を蒔こう
言の葉を繁らせる
たった三本の木のために

三百の花を摘んで捨てよう
人の心を蕩かすような
たった三つの果実のために

その一つは
時鳥に啄まれて逝った
またもう一つは
知らぬ間に腐れて堕ちた

残されたただ一つの粒を
柔らかくもいで、両の手に包む
差し出すべき人を、両の目で探す

ああ、幾時が経っただろうか!
誰も受け取らぬ甘き実は
熟れ爛れて今や
手の中で崩れんばかりだ

もう一度、彼方を見遣る
右を見る、左を見る
そして遂に
泣き顔のまま、むしゃぶりついた
手の中の醜い果実
酩酊を誘うような甘い汁に
塩辛い涙が入り混じって
顔中が、びしょびしょになる

……

やがて、全てが無くなった
一粒の種だけを残して

むせ返るような甘さも忘れた頃
その種を蒔いてみるのだ


自由詩 種を蒔く人 Copyright のらさんきち 2017-11-18 17:36:57
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